今は胸を張って大好きだと言えるこの仕事ですが、はじめた頃は、実は毎日思っていたのです。「いつか辞めたいな」って。
その頃は、数学とかパソコンとかの方が好きだったし、いくら頑張っても扱っている植物は水をあげても枯れてしまうし、お手入れもどう扱ってよいかわからないし。お庭の剪定(木の枝切りや刈り込み)をしていても、お客様が喜んでくれているのか、全くわかりませんでした。
同世代の友人も、お庭に興味を持っている人なんていませんでしたから。
しかしある事をきっかけに、園芸が大好きになってきたのです。
はじめて告白された時よりすごい衝撃、それは・・・
忘れもしない、26歳の春。
グリーンレンタルで、毎月お伺いしていた問屋町の喫茶店での出来事でした。
喫茶店の中にある、贈り物でもらったという木が、冬の寒さで枝が茶色く
シナシナ~っとなって、すごく弱っておりました。
「片桐さん、これどうしたらいいんですか?」
40代後半くらいの、オーナーであるおば様に突然聞かれ、
「茶色くなったところを切ればいいんですよ。今切りましょうか?」
と、とっさに答えてしまい、その流れでそのまま剪定。
木はさっぱりとして、キレイになりました。
すると、
「わー、さすが片桐さん、プロやねー!
すごいイイ風になったわー!」
キレイになって満面の笑顔のおば様。
その言葉と笑顔を頂いた時、
僕のハートに刺さるものがありました。
そう、それは恋・・・
ではなく、
『人から喜ばれる仕事が出来るという実感。』
『今までやってきた事が間違いでなかったという確信。』
この仕事を続けて、もっとたくさんの人に喜んでもらいたい!
そう胸に誓った、桜の花が咲き誇る、26歳春の出来事でした。
5年目に春が来て、気が付いた事がもう一つあるのです。
それは、緑と話す事。
今まで気が付かなかったのですが、
緑はいつも私たちに話しかけてくれているのです。
直射日光を受けすぎている緑は
「ちょっと暑すぎるよ。」
葉にほこりが乗っている緑は
「やさしく拭いてほしいなー。」
水が足りていない緑は
「のどが渇いたからお水をちょうだい。」
様々な緑の勉強をして、その緑の特徴を知れば知るほど声が聞こえるようになったのです。
喫茶店の木も、実は「悪い部分を取り除いてほしい。」って話しかけてくれていたのです。緑の立場で考えるようになってからというもの、同業者の方には「植木とお話が出来る片桐さん」と呼ばれております。
『今までやってきた事が間違いでなかったという確信。』
この仕事を続けて、もっとたくさんの人に喜んでもらいたい!
そう胸に誓った、桜の花が咲き誇る、26歳春の出来事でした。
お客様にも喜んで頂き、緑の手入れも板についてきた頃、多くの人が集まる「寄せ植え講習」でお話をする事になりました。
しかし、「この苗をココに植えてください・・・」で話が終わってしまう。ヤバイ!60分も持ち時間があるのに。と、その時、気がついたのです。仕事を通じて、たくさんの経験を積んできから何をどうしたらいいのか自分ならできる。
しかし、それを"人に伝える時の言葉"を実は持っていなかった、という事に。職人さんになってしまって、もしかしたら、お客様と上手にコミュニケーションが取れていなかったのではないか、と多いに反省する事になりました。
プロですから、緑に関する技術は持っていて当たり前。その上で、お客様とコミュニケーションをより深める「人間力」が大事なのだと気づきました。
それからはお客様のご要望やイメージをしっかり聞かせて頂き、
お客様の気が付かない部分もしっかりお話させて頂いて、
お仕事をしております。
例えば維持管理のこと。
本で読んだりホームページで調べたりして、「○○という木を植えたいわ」と仰る植物が大好きな奥様がみえます。
「奥様、そこはヨーロッパだから綺麗になってるんですよ」、という事もよくある話。
後で「こんなはずじゃなかったのに・・・」という事が起こらないように、毎日、岐阜県羽島郡笠松町で緑のお手入れをしている経験を活かし、詳しくお話をさせていただきます。
それをご希望される一番の理由はどこにあるのか?、又、ご希望の品種がこの地域でどのような成長をするのか?
長年経った時の維持管理を含めた話し合いをさせていいただきます。
もちろん、最初はただ聞くことの方が多かったのですが、
様々な方と深くお話させて頂くことで、
だんだんとご提案する内容も増えて参りました。
緑だけではなく、花についてもお客様のご要望が多く、
特にバラについてはたくさん勉強させていただきました。
勉強に夢中になるうちに、とうとうバラが自分も欲しくなって
一度に20鉢ほど注文した事もあります。
お話をしながら、ご提案がお客様のイメージに合っているか、
それとも違っているか確認させて頂き、
よりお客様のイメージに合うように、しっかり内容を詰めていく。
それがお客様のために、ボクに一番できる事だと思っております。
お客様からお話を聞いて、ご要望に近いイメージのお庭づくりや、
オフィスの観葉植物をレンタルしていて、
もっともっとお客様に喜んでいただきたいと思いはじめるようになってきた頃、
ふと何気なく参加したツアー中に、これまた衝撃的な出会いがありました。
オランダ アムステルダム国立美術館。
大きな部屋の壁一面に飾られた、オランダの国宝と呼ばれる
レンブラント・ファン・レインの「夜警」。
人の心を動かす何かが美術・芸術にはあるのだ、と強く感じました。
それから、機会がある時にはできるだけ美術館に顔を出すようになりました。
世界中のあらゆる物が集められている
ニューヨークのメトロポリタン美術館。
日本では横山大観さんの絵を集めた
足立美術館も思い出深い場所です。
そこは建物やお庭もとても綺麗に
手入れされていて、美しさってなんだ
ろう?という疑問を少しずつ埋めて
いってくれたような気がしました。
絵画や彫刻のような美術品も、緑も、原点は同じではないか、と思っております。
どちらとも、その場所、空間を創りあげる何かを持っていること。
そして、主役は美術品ではなく、その中にいる人だ、ということ。
お客様の「この角度から見た時、こんな感じにしたい」といったご要望を頂く時、
あの美術館で見た絵や彫刻たち美術品の持つ感動を思い出しながら、
「主役であるお客様が楽しめる庭造り」
「ご来店する人が少しでも楽しい気持ちになるようなお店のグリーン」
「そこで働く人達の心が少しでも癒されるオフィスグリーン」
その空間が持つ特徴を活かしながら、
主役であるお客様に少しでも喜んで頂きたい。
ここ数年で6回も海外へ行く事になり、すっかり結婚資金も使い果たして
しまいましたが、その経験を活かした提案でお客様から喜びの声を頂くことで、
又お話させていただく提案内容が良くなっていくのだなと感じています。
これからも緑(植物)はもとより、様々なものから学び、よりお客様に感動を運んでいけるように一生勉強を続けていきたいと思っています。
そして一番伝えたい事が、あなたのお庭や、あなたのお店や、あなたの会社、
「もし自分の家の庭だったら」
「もし自分のお店だったら」
「もし自分の会社だったら」
と考え、ご提案させて頂いております。
いつもご提案するときに思っていること。
それは大掛かりに変える必要は無いという事。
だって、大掛かりに変えるとそれだけお金がかかってしまいますから。
ちょっと変えるだけで、空間はすごく良くなるんです。
暮らす事が楽しくなったり、お店に来てくれるお客様が楽しくなったり、働いていて癒されるようになったり。
見ていて、感じていいなと思う空間。
ボクはこれからも、あなたと同じ目線で考え、聞き、お話させていただこうと思っております。
色々とボクの事をお話させて頂きました。
そんな街の園芸屋さんはスタッフも多くありませんので、ご紹介でお仕事をさせて頂く事が非常に多いのです。
よく耳にする言葉が、
「鈴木さんの奥さんが、片桐さんならとりあえずどうにかしてくれるから。」
「足立さんが、片桐さんに聞いてみればって言うから。」
などとご縁を頂く事が多く、どこかでご紹介てくださる方が多いので嬉しいです。
お客様の声にしっかり耳を傾け、園芸を中心に様々な勉強をしてきた事で、お客様の「とりあえずどうにかしたい」のご相談にもお応えできるようになりました。
自分だけで園芸屋さんをやってきたのではなく、お客様に育てて頂き、同業の方に温かく見守って頂き、関わらせて頂いた全ての方に感謝して、これからもお客様の喜ぶ顔を楽しみに、地域密着の「街の園芸屋さん」で頑張っていこうと思います。
長いお手紙を読んで頂きありがとうございます。
あなたのまわりが、緑や花で『いいなと思う空間』になれば嬉しいです。
コメントする